コーチングが日本に入ってきて、20年以上。カウンセリングやコンサルに比べて、知名度もなければ、市場規模もポテンシャルしかない。この記事は、コーチングが売れる人と売れない人がいる、という差分の話ではなく、一般的にコーチングが類似の対人サービスと比較して、なぜ売れないのか、という話です。
コーチングが売れない理由が「単価が高いこと」という説もありますが、カウンセリングやコンサルと比較すると、相場にそこまで差はないどころが、むしろコンサルのほうが高い。コーチの「実力」についてもしかりで、カウンセリングやコンサルでも、経験の浅い初心者はいます。では、なぜなのか。
人の「答えを急がない勇気」がなくなっているからです。
これは、環境ジャーナリストの枝廣淳子さんの著書名でもあります。著書では、「ネガティブケイパビリティ」の大切さを語っています。ネガティブケイパビリティとは、「わからないことや自分にとって不都合なことも受け入れ、答えの手がかりが見つかるのを待ち続ける」能力のことです。(「答えを急がない勇気」より)
カウンセリングやコンサルでも、クライアントの思いを受け止める過程はありますが、最終的にはアドバイスや対処法に帰結します。コーチングはそうではない。あくまで、ベースは「コーチが答えを与えない」「クライアントの中に答えはある」「アドバイスは求められるまでしない」。このことが、答えを急がない勇気をもちあわせていない現代人には、耐えられない、耐えられないから効果を感じらない、そして、コーチングは効果がない、と判断します。実際、コーチングをしていても「アドバイスがほしい」と言われることがほとんどです。
下記は、答えを急がない勇気をもちあわせていない実例です。
1.個人バージョン
答えが知りたければ、即座に検索。
検索結果画面で、答えがわかりそうなサイトのタイトルをクリック。
サイト序文に、うんちくが入っていたら読み飛ばす。そんなのはいいから、答えだけ教えて。
2.仕事バージョン
仕事が早い人、手早い人は、まず評価される。
3.ビジネスバージョン
3か月以内に利益が出なかったら、トップ交代。
4.政治バージョン
3か月以内に成果がでなかったら、政権交代。
スピード、変化、タイパ、VUCA。
わかりやすい結果を性急に求める文化と社会、そしてそれを評価する文化と社会ができあがっているため、答えがすぐにでるものではない物事に対する忍耐力が、確実に落ちています。
いったい誰がどうやってはかったか、現代の1日分の情報量は江戸時代の1年分、平安時代の一生分の情報量といいます。もはや、人間が処理できる情報量ではなくなりました。即座に答を出せるAIの台頭です。
今一度、私たちは人間ならではの価値を発揮できる分野を見直す必要があります。人や自分を、AIよろしく、スピードやわかりやすさという基準で評価し続けたら、人の心は壊れます。早さや効率だけでは解決しないものごとについて、じっくり味わい続ける忍耐力を、いまいちど取り戻す。そのことを人間に伝えるために、AIは発達しているのではないか、とすら思えます。
話を戻すと。
コーチングではそういう答えがでない領域の課題・問題について、行動を起こしながら、じっくり伴走する勇気と忍耐力を育てます。早急な結果を求めるコンサルとは、根本的に違います。スキルやテクニック、戦略を教示するコンサルも必要ですが、同時に、答えを急がない勇気という土壌をもちあわせていると、スキルやテックニックも開花します。
私は、コーチングとキャリア相談をかけあわせたサポートもしていますが、クライアントがいますぐの転職を決断するケースと、いますぐの転職はしない決断をするケースがあります。前者は行動の結果の展開が早いから、クライアントの満足感、充足感があります。一方で後者は、行動の展開が遅いですから、むしろ心理的負担が大きくなり、満足度が下がります。だから、世の中のキャリア相談は、前者に寄ります。転職してあなたの夢をかなえましょう、というマニュアルができあがっています。
でも、人生をいきる上でホンモノの力を養うのは、後者です。いまいる環境の中で、いかに自己成長するか、という課題に立ち向かう力は本物です。だから私は、満足度が下がることがわかっていても、クライアントがそう決断したら、それを尊重します。キャリア相談はできる人はたくさんいるけど、実は、こちらの相談ができる人は世の中にあまりいません。世の中のキャリアコンサルタントも、転職・就職のアドバイザーであることがほとんどです。
令和に入り、答を急がない勇気を養う時代に突入しています。